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朝日グラフ美術特集日本編81の巻末に、
昭和19年ごろ富士吉田で製作中の写真が掲載されている。そこには雄大な富士を前に、
直角に近い角度で、イーゼルを置き、富士を描く和田氏の姿が映っている。 その作品に目を落とすと、まさしく今回紹介する、作品と同じ構図の作品を描いており、 写真の風景も、ほぼ、同じであることに気付く。ただ、当方のサインは1939年とあるので、 昭和14年の作ということになり、写真の解説とは若干年代の差があるが、制作場所は同一と思われる。 当時和田氏は、富士吉田の刑部という旅館を常宿としており、これに同行した孫の楽氏は、 「朝4時に起き、二重廻しに、中折れ、襟巻き、5本の指の先を切った右手の手袋、 足袋に下駄といういでたちで暗いうちから出かけ、旅館の番頭さんが準備した、 焚き火で暖をとりながら夜明けを待ち、その数十分間に筆を運び帰るという日課が毎日続いた」 と前述朝日グラフに回想している。刻一刻と変化する自然の一瞬を忠実にとらえるために、 同じ時間同じ場所で、描きつづける努力。それは、和田氏の物事に対する精神性の表れなのかもしれない。 |
『富士 (夜明け)』 和田 英作 1939年 油彩・キャンバス・100×80.3cm |
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